たからづかきねん

これは私がちいさいころ、とある村のおじいさんからきいたおはなしです。



むかし、むかし、あるところに、里見 治(さとみ はじめ)というとばくやの会長をしているおじいさんと、妻の美恵子さんというおばあさんがいました。
ある日、おじいさんは村の中で数十回あるおうまの販売の中でも、1番の大金持ちが集うに販売へ行きました。


その人は今まで、いろいろな販売で何百頭の馬を買ってきました。
だが、大きなレースになると良い結果になることはありませんでした。
ですが数年前おじいさんはとある馬を買ったのです。
その馬の名前はサトノダイヤモンドです。


おじいさんとおばあさんは、それはそれはだいじにサトノダイヤモンドの成長を見守ったのです。
サトノダイヤモンドはだんだん成長するにつれて、あたりまえの子供に比べては、からだも大きいし、力が強くって、レースに出てもの村じゅうで、かなうものはひとりもないくらいでしたが、そのくせ気だてはごくやさしくって、おじいさんとおばあさんによく孝行をしました。

そして去年の菊花賞、馬主をして24年と8カ月の歳月を経て、大きなレースを勝つことが出来たのです。

もうその彼には、日本の3さいで、サトノダイヤモンドほど強いものはないようになりました。サトノダイヤモンド古馬と腕いっぱい、力ちからだめしをしてみたくなりました。

するとそのころ、古馬のレースを走っていたレインボーライン(4歳浅見厩舎)からとある話しを聞いたのです。
古馬を走ると、毎回表彰式で“まつり”を歌う悪い鬼の集団がいる。彼らはとても大金持ちのようだ」

それを聞いたサトノダイヤモンドはおじいさんに
「どうぞ、わたくしにしばらくおひまを下さい。」と言いました。
おじいさんはびっくりして
「どこへいくのだ」と聞くとサトノダイヤモンド
有馬記念で走らせてください」と答えました。
「ほう、それはいさましいことだ。じゃあ行っておいで。」
とおじいさんは言いました。
「まあ、そんな遠方へ行くのでは、さぞおなかがおすきだろう。よしよし、おべんとうをこしらえて上げましょう」
 とおばあさんも言いました。
 
そこで、おじいさんとおばあさんは、お庭のまん中に大きな臼を持ち出して、おじいさんがきねを取ると、おばあさんはこねどりをして、おべんとうのきびだんごをつきはじめました。
きびだんごがうまそうにできあがると、サトノダイヤモンドのしたくもすっかりできました。
サトノダイヤモンドは、きびだんごの袋を帯にかけ、
「ではおじいさん、おばあさん行ってまいります」と言って丁寧に頭を下げました。
「じゃあ立派に鬼を退治してくるといい」とおじいさんは言いました。
「気をつけて、けがをしないようにね」とおばあさんは言いました。
「なあに、大丈夫。日本一のきびだんごを持っているから」とサトノダイヤモンドは言って
「ではごきげんよう」と元気な声をのこして家を出て行きました。


そして、サトノダイヤモンドはきょねんの有馬記念で鬼のキタサンブラックという馬を倒したのです。
ですが、ことしの春の天皇賞では鬼であるキタサンブラックにまけてしまったのです。
サトノダイヤモンドにも苦手があったのです。



サトノダイヤモンド「どうすりゃいいんだ」

京都競馬場で向かえた天皇賞春。
好位追走もキタサンブラックのペースにはついて行けず、3着が精一杯だった。
競馬場に響くファンのため息、どこからか聞こえる「サトノダイヤモンドに鬼退治は無理だな」の声。
無言で帰り始める関係者の中、去年の菊花賞馬は独り馬房で泣いていた

菊花賞有馬記念で手にした栄冠、喜び、感動。そして何より信頼できるジョッキー・・・
それを今の状態で得ることは殆ど不可能と言ってよかった
「どうすりゃいいんだ・・・」サトノダイヤモンドは悔し涙を流し続けた
どれくらい経ったろうか、サトノダイヤモンドははっと目覚めた
どうやら泣き疲れて眠ってしまったようだ、冷たい芝の感覚が現実に引き戻した
「やれやれ、帰って宝塚記念に向けて練習をしなくちゃな」サトノダイヤモンドは苦笑しながら呟いた
立ち上がって伸びをした時、サトノダイヤモンドはふと気付いた

「あれ、サトノクラウンがいる...」
ノーザンファームしがらきでサトノダイヤモンドが見たのは、サトノクラウンだった。彼をきびだんごで釣り、自分は凱旋門賞まで休み、練習をすれば凱旋門賞で鬼退治できるんだと。
暫時、唖然としていたサトノダイヤモンドだったが、全てを理解した時、もはや彼の心には雲ひとつ無かった
「勝てる・・・これで凱旋門賞で鬼退治できるんだ!」
ファンの歓声を背に凱旋門賞へ向けて頑張るサトノダイヤモンド、その目に光る涙は悔しさとは無縁のものだった・・・

翌日、栗東で冷たくなっている池江泰寿が発見され、吉村と村田は病院内で静かに息を引き取った。





サトノダイヤモンドがコースへ向かうと、中から「ヒヒーン」と声をかけながらサトノクラウンが来ました。
サトノダイヤモンドが丁寧にお辞儀をすると
サトノクラウンさん、サトノクラウンさん、どちらへおいでになります」とたずねました。
宝塚記念で走るのだ」
「なら私の分まで替わりに頑張ってください。日本一のきびだんごを上げるので」
と言い、サトノダイヤモンドは帯からきぶだんごを取り出し、サトノクラウンに上げ、
「はい、あげるので宝塚記念頑張ってきてください」
サトノクラウンサトノダイヤモンドから貰った日本一のきぶだんごを食べ、調教を進めて行ったのである。


それから月日が経ち、宝塚記念の当日。
サトノクラウンは鬼であるキタサンブラックに向かって
「お前をせいばいしにきた」
と言いました。
レースでサトノクラウンは鬼に向かって挑みました。
「これでも降参しないのか」とサトノクラウンは鬼であるキタサンブラックの前に立ちはだかり、鬼は前に出ることは出来なかったのです。
キタサンブラックは「降参します、降参します。命だけはお助け下さい。その代わりに1着賞金は上げますので」
こう言って許してもらいました。


こうしてサトノクラウンサトノダイヤモンドの替わりに鬼退治をして、1着になることが出来たのです。


これにはおじいさんも、おばあさんも、鼻がたかくなるほど喜びました。
「えらいぞ、えらいぞ、それこそにっぽんいちだ。」
 とおじいさんは言いいました。
「まあ、まあ、けががなくって、なにより」
 とおばあさんは言いいました。
 サトノクラウンは、その時こう言いました。
「どうだ。宝塚記念はおもしろかったなあ。」
 
ミルコ・デムーロ騎手はうれしそうにほえみながら、ジョジョ立ちをしました。
クリストフ・ルメール騎手は、笑顔で「4コーナーで小牧さん、京都駅に行きました」と話しました。
岩田康誠騎手は、笑わらいながら白い歯はをむき出だにし、くるくると宙返りをしました。
 
空は青々と晴れ上がって、競馬場の周りには桜の花が咲き乱れていました。

めでたしめでたし。





参考文献:楠山正雄 「しげるこんぐ」